歩きながら空を見上げてみると、綺麗な満月だった。

「見ないから、顔上げてみ。満月」

 見上げながら言う。鼻をすする音が聞こえる。

 その後10分ほど歩いて、古びたマンションについた。階段で2階まで上がって、一番端の部屋。鍵を開けて詩依を先に入れる。

「適当に座れるとこ座って」

 小さなワンルームを少し見渡した後、詩依はゆっくり部屋に上がった。
 昨日掃除機をかけておいてよかったと心から思う。

「なんか飲む?甘いの大丈夫ならココアとかあるけど」

 どういう意図があったのか知らないけれど、お徳用の粉末ココアを一ヶ月程前に店長からもらっていて、とくにココアが好きでもない俺は封すら開けていなかった。

「ん、ココア好きだよ」

 いくらか落ち着いたらしい詩依はそう言って頷いた。鼻の先が少し赤い。…どうしたものか。

 かなり悩みつつココアを作って、電子レンジで温めてから詩依に手渡した。

「…あったかい」
「今日寒いしな。…いつから居たの?」

 ローテーブルを挟んで、詩依の向かい側に腰掛ける。

「…12時くらい」
「…これからはそんな時間にあんま出歩くなよ」

 そう言うと、詩依は少し傷ついた顔をした。…そんな顔されると、期待してしまう。

「――今度からは俺が迎えに行くから」
「…ありがとう」

 …泣きそうな声で言わないでほしい。