「高校時代って、どんな奴だった?」

 後姿に聞いてみると、詩依は辺りを見回しながらしばらく黙って、

「人に言わせれば、下ばっかり向いてるような奴だったって」

 …下ばっかり?暗いということだろうか。全くイメージがわかない。

「何をやってもおもしろくなさそうで、何をやるのも面倒くさそうで」

 話しながら、ポラロイドカメラをこの前海で見たおもちゃみたいなカメラに持ち代えて、空に向ける。

「笑うこととか、そういうのを怖がるみたいにずっと冷めた目をしてたって」

 カメラを下ろして、ふり返る。
 揺れる茶色い髪に、表情の見えにくい青い目。

「――好きな人が、いつかそう言ってた」

 青い目が優しく笑った。その瞬間だけは、心から笑ったのだとはっきりとわかった。

 だからどういう顔をしていいのかわからなかった。

 おまけに頭に浮かんだことといえば、今もその人が好きなのかとかその人は恋人なのかとか、そういうくだらない質問ばかりだったから反応にも困ってしまった。

 そんな心境を見抜いたのかどうかはわからないが、詩依は笑った。

「ほんと、奏って正直だよね」

 …心境が顔に出るタイプではなかったはずなのだけど。なんだか何もかも見透かされている気がする。

「…女にはだいがいよくわからないって言われるよ?」
「わたしにはわかるよ」

 わたしと似てるから、と詩依は言った。…どのへんが似ているのか俺にはまったくわからない。

「お、なんだっけあれ、くじゃく?」

 柵の向こう側には、小川の側にクジャクが居た。雌なのか、イメージにあるゴージャス感は全くない。

 なんだか心境的にものすごく混乱させられている気がする。いきなりクジャクとか言い出すし。

 モデルをしにきたわりには俺にカメラを向けないし、だからなんか、デートみたいだし。