照れ隠しでなんとなく猿を見つめていたら、詩依はいつの間にかカメラを取り出していた。なんかまた初めて見るカメラだ。

 猿を取るのかと思ったら俺にカメラを向ける。

「笑ってー」

 いきなりそんなことを言われても、と逆に顔をしかめてしまった。その瞬間シャッターを切る。

 詩依は声を上げて笑っていた。

「いいよ、正直な顔だよ」
「はー?」

 カメラから写真が出てくる。

「ポラロイドカメラってやつ」

 詩依はそう言いながら、写真を手に撮る。
 じんわりと画が浮かんできて、まるで魔法でも見ているような気分だ。

「わたしもね、奏みたいなタイプだったの」

 意味がわからずに詩依を見ると、詩依は淡く微笑みながら写真から目を離さないでいる。

「笑ってって言われて素直に笑える種類の人間じゃなかった。逆に、顔しかめちゃうの」

 言い終わって、はい、と写真を差し出される。

 青空と錆びれた動物園をバックに、しかめっ面の俺の顔。色合いがなんとなく不思議で綺麗だ。

「でもそのうち作り笑いばっかり上手になっちゃった」

 写真を受け取って顔を上げると、言っていることとは裏腹に詩依はとても綺麗に微笑んでいた。

「…それも作り笑い?」
「どうかな」

 簡単にはぐらかされてしまう。
 …正直、判断がつかなかった。もともとこういう風に笑う人だとも十分思えたし、綺麗すぎるその笑顔は常に作りもののような気もした。

 背を向けて歩き出した詩依に続く。白いワンピースの裾がふわふわ揺れている。