土曜日は、晴れた。

「あたしって雨女なんだけどな」

 しょっぱなからそんなことを呟かれると本当は来たくなかったんじゃないかと疑ってしまう。

「俺は晴れ男」

 今回晴れたんだからそうに違いない。

「似合わないよ。しかも、それなら間をとって曇りとかでも良さそうなのに」
「………」
「行こっか」

 時間より少し送れたバスが到着して、いたずらっぽく笑う詩依に続いて乗り込む。
 休日だからか、家族連れが多い。

「動物園もしょっちゅう行くの?」
「動物園はないなあ。ちっちゃい頃に行ったことがあるけど」

 そう言った詩依の口元は綺麗に微笑んだままだったけど、なんとなく目は笑っていない気がした。 
 あまりいい思い出はないのかもしれない。

 だから深く追求することはやめて、窓の外を見つめる詩依の横顔をただ見つめていた。

 大きな公園の前に停まったバスから降りて、公園の一角にある動物園に向かう。
 普通に歩いたら15分とかで見終わってしまうようなとても小さな動物園だ。

「なんか、成長してから来ると眺めが違うよね」

 入場料を払って、中へ進む。小さな猿がベンチに座っている。首輪から伸びた紐はベンチの隅に繋がっていた。

「確かに、昔きたときはこの動物園もっとでかかった気がする」

 小さな子供を連れた夫婦が横を通り過ぎた。子供が猿を指差して何事かをしきりに喋っている。

「…子供、好き?」

 詩依が猿と子供を眺めながら聞いてくる。

「好きかな」
「見かけによらないね」

 …どんな見かけだ。

「詩依は?」
「あたしは…好きじゃないかな。疲れるから」
「こういうとき女は子供大好きーとかここぞとばかりに言うんじゃないの?」
「あはは、言えたら可愛いんだろうけど」

 言えなくても可愛いよとは思ったけどそれこそさすがに言えない。