「――ん?なんてー?」

 だけど詩依はすぐに表情を取り繕って(取り繕ったように見えただけかもしれない)、呑気な口調で聞いて来た。

 …脳裏に、プロフィールのあの冷たい瞳が蘇る。…青の中の、あなたへ。何故かあのフレーズと一緒くたになって。

「…――いや、気持ちいいからこっちきて足つけてみたら?」

 とりあえずそんな思考を追い払って言うと、詩依も波打ち際まできた。

「おー冷たい。でも気持ちいいねー」

 ぱちゃぱちゃと波で遊びながら、自分の足元にカメラを向けてシャッターを切っている。…気のせいか?別になにも変わった様子はない。

 内心首をひねりつつ、波打ち際に視線を戻した。小さな白い貝殻がいつの間にか足元に転がっていた。なんとなく、拾ってみる。

「綺麗な貝殻だね」

 詩依が、右手にはおもちゃみたいなカメラを構えつつ(いつの間にか一眼レフみたいなのではなくなっていた)、左手をこちらに伸ばしてくる。

 貝殻を渡す。その瞬間にシャッターを切っている。…どんな写真ができるんだろう。

 貝殻を受け取った詩依は、カメラを慣れた動作で鞄に突っ込んで、貝殻を見た。
 太陽にかざして、目を細めている。…俺なんかよりずっと写真に撮りたい光景じゃないだろうか。

「海、久しぶり?」

 きいてみると、詩依は首を横に振った。

「季節関係なくしょっちゅうくるかな」

 静かに笑う。…少し寂しげに見えた。詩依が撮る、写真みたいに。

「好きなの?海」

 詩依は海に目を向けて、こくんと頷いた。

「大好き」

 その響きに心臓が跳ね上がる。…いや、別に俺に対して言われたわけじゃないけど、でもなんか、

 …でもなんか、すごく大切にその言葉を発したように見えたから。

「ちょっと休もっか?」

 見上げてくる青い瞳は、南の島の綺麗な海くらい透明な気がした。