ついたぞ、と声をかけようとした瞬間に詩依は起きた。ずっと起きていたんじゃないかと思うくらい見事なタイミングだった。
 …実際起きてたんじゃないだろうな。

 先に電車を下りた詩依に続いて、ホームに下りる。…潮の香り。

「あー気持ちいい」

 詩依が大きく伸びをする。太陽がめちゃくちゃ眩しい。詩依の白い肌はすぐに焼けてしまいそうだ。

「ねえ、先に行って」
「は?なんで」
「いいからいいから、別に消えたりしないから」

 渋々前を行くことにする。改札を抜けて、振り向くと一眼レフ(らしきカメラ)を構えた詩依が居た。

「わ、何撮ってんの」
「モデルは撮られるのが仕事でしょうが」

 反射神経でカメラに向かって手をかざしてしまったせいか、カメラをおろした詩依は口をとがらせた。

 …そういえば写真を撮られるという行為はあまり好きじゃないことを忘れていた。

「…海で撮るんだろ」
「仕方ないなあ」

 口をとがらせたままの詩依は、横に並んで歩き出した。