「いや…あんまり。なんとなく、就職できたらって感じかも」

「でしょー?――人間なんて、いつ何が起こるかわかんないしさ」

 詩依はそう言って、また視線を窓の外…というより、どこか遠くの方へ向けた。

「もしかしたら、明日死んじゃうかもしれないし」

 詩依がどこか淡々とそう言った直後、電車が偶然大きく跳ねて内心かなりびっくりした。

 そんな様子を見抜いたらしい詩依が小さく笑う。

「ここ、いっつも電車揺れるんだよね」
「………」

 屈託なく笑う姿は何故か憎めない。得な雰囲気をもった人だなと心底思う。

「――寝てもいい?」

 そして突然、そんなことを言う。

「昨日、あんまり寝てなくて」
「…どうぞ」
「おやすみ」 

 あっさりとそういうと、水原詩依はうつむき加減で目を瞑ってしまった。
 …寝れるのか、ほとんど初めて会話したような男の前で。

 呆れつつ、しばらく動かなくなった詩依を眺めて、それから窓の外に目を向けた。
 市街地(といっても田舎の部類だが)から離れた電車からは、のどかな緑色の風景が見えた。

 詩依が眠っていることを確認して、その景色に携帯のカメラを向けてみる。

 だけどカメラのレンズを通して見ると全然つまらない風景の様な気がして、すぐにフリップを閉じた。…肉眼には綺麗に映っているのに。

 ――詩依なら、綺麗なままうまく切り取ってみせるのだろうか。
 もしかしたら、肉眼で見るよりももっと綺麗で、寂しげに写してみせるかもしれない。