なんとなく無言のまま20分ほどで電車を乗り換えて、ボックス席に向かいあって座る。
 1時間に一本しかない電車に、人は少ない。5月というまだ夏まで届かない季節のせいもあるのかもしれない。

 斜め向かいに足を組んで座る水原詩依は、窓の外を見ている。

「…なんで、俺をモデルにしようと思ったの?」

 勇気を出して問いかけてみた。…なに緊張してんだ、俺。

「んー、なんとなく。ちょっと不健康そうなとことか」

 窓から目をそらさずに言う。不健康そうって、なんだ。

「…人のこと言えないと思うけど」
「あはは、コンビニ暮らしだしねー」

 全く意に介さない様子で呑気に笑う姿までぬかりなく綺麗だ。

「…いっつも煙草買ってくけど、何歳なわけ」
「21だよー。永谷君は?」

 21か…同い年くらいかと思っていた。

「19」
「2つ下か。大学生?」
「うん。…水原、さんは?」

 年上なことを意識していうとなんだか変な言い方になってしまった。

「詩依でいいよ。わたしはフリーター。適当に、気がむいたときにバイトしてるの。生活できる程度に」
「将来とか…考えないの?」

 敬語を使うべきかとも考えたが、今更使うのも嫌だった。距離が離れてしまいそうで。

「将来かあ…永谷君は考えてるの?」
「…奏でいいよ」

 真似してそう言うと、水原詩依――、詩依、が、こちらを見た。

「奏は、将来のこと考えてるの?」

 優しい表情で名前を呼ぶ。…駄目だ、やっぱり調子が狂う。