――思わず息を呑んだ。

 そこに現れたのは、振り向きざまにこちらを見た――いや、カメラを見た、水原詩依の横顔だった。

 全体的に白く、顔の造作はわかりにくくなっていたが、その青い瞳が強烈なインパクトを放っている。

 その目はいつも「ありがとう」と微笑むときの目とは全然違って、なんというのか、とてつもなく温度の低い印象を受ける目だった。――何もかも拒むような、頑なな視線。

『海―KAI
 写真を撮って、2年。
 青の中の、あなたが見てくれていますように
 へたくそだと、笑ってくれていますように』

 添えられているのはそんな文章だった。
 海、というのはハンドルネームだとして、

 ――…青の中の、あなた?

 誰かに見てもらう為のサイトなのだろうか。
 言葉の意味はわからなかったけれど、綺麗だ、と思った。

『サイト見たよ。写真は全部見てないけど、なんか綺麗だな』

 メールをうって、また写真の画面を開いた。

 黙々と見ていく。肉眼で見るのとはまた違う、淡い色の写真たち。優しい印象と、寂しい…というのか、悲しい、というのか、そんな印象を同時に受ける。

 動物や風景の写真ばかりで、人を撮ったものは一枚もなかった。

『ありがとう。モデル、頼んでもいいかな?』

 そのメールにすぐに返事をした。

『俺でいいんなら、やってみたい』

 ますます水原詩依という人物に、興味がわいていた。


 それからぴったり一週間後、俺は家から一番近い駅で水原詩依を待っていた。