逃げるように生徒玄関までたどり着くと、携帯電話が鳴った。画面を見なくても通話の連絡はあの人しかいない。無視しようかとも思ったが、気持ちを落ち着けるためには悪魔とでも会話したい気分で電話に出た。
「あー、子リス?
明日、ドーム、4時45分ね」
相変わらず、華子さんの電話は突然用件から始まる。そこは予想の範囲内だったが、用件は予想外だった。
「えっ?
ドームって?
明日って確か、タイフーンのコンサートですよね。
まさか、チケットあるから一緒に行こうって誘ってくれるんですか?」
「まっ、そんな感じかなー。
この前はちょっと悪かったかなーって。
朝ご飯おごってもらっちゃったし。
ラーメンだったけどね。
まっ、そんなことはいいや。
じゃあね、北B5ゲートで待ってるから。
絶対遅れないでよ」
華子さんは無駄な言葉をできるだけ省略し、必要事項だけ伝えるとさっさと電話を切った。私は茫然と切れた電話を見つめた。
うわー、マジ?
アイドルには全く興味のない私だが、タダとなれば別。
みんなにも自慢できるし……
いや、待てよ
と、冷静な私が声を掛ける。
華子さんの本質はこの数日間で十分すぎるほど理解した。その華子さんが、そんなおいしい話をタダで持ってくる訳がない。
これには裏がある。
絶対。
ずえぇぇったい裏がある。