すると、角の家のブロック塀にぴったりとくっつき、片足を塀に置いて自転車にまたがる男性が現れた。夜中だというのに、ツバのある帽子を顔を隠すように深くかぶっている。その不審な格好と理由の分からない行動に、恐怖心がつのる。
出来るだけ早く通り過ぎようと足を速めた。けれども、ついつい怖い物見たさでチラリと目線を送った。
薄暗い街灯に照らされた浮かび上がるシルエット。その細身のフォルムには見覚えがある。思わずチラ見を凝視に変更すると、その不審者が記憶にある人物と重なった。
「あ……藍人くん?」
私の声に反応し、藍人くんは小学校の学芸会並みの演技力で「あれーー、偶然ですねーー」とセリフを吐いた。そして自転車を塀に立て掛け、私に近よった。
一方私は、劇団四季なみの演技力で平静を装う。
「うっ、うん。
偶然だね。
こんな夜中に何してるの?
家、この近所なの?
今までも顔合わせたことあったのかな」
「ええっ、ちょっと、まあ色々あって……」
と、藍人くんはうつむいたまま顔を上げない。
残念ながら、お互い次のセリフは頭に入っていない。ましてや、アドリブなんてできやしない。住宅街にシーンと音の無い音が響いた。熱帯夜だというのに、鳥肌が立つような肌寒さを感じる。
気まずい空気に耐えられず、私は「じゃあね」と立ち去ろうとした。けれども、私の足が1歩目を踏み出すか踏み出さないかの間に、次のセリフを思い出したかのように藍人くんがリアクションした。
出来るだけ早く通り過ぎようと足を速めた。けれども、ついつい怖い物見たさでチラリと目線を送った。
薄暗い街灯に照らされた浮かび上がるシルエット。その細身のフォルムには見覚えがある。思わずチラ見を凝視に変更すると、その不審者が記憶にある人物と重なった。
「あ……藍人くん?」
私の声に反応し、藍人くんは小学校の学芸会並みの演技力で「あれーー、偶然ですねーー」とセリフを吐いた。そして自転車を塀に立て掛け、私に近よった。
一方私は、劇団四季なみの演技力で平静を装う。
「うっ、うん。
偶然だね。
こんな夜中に何してるの?
家、この近所なの?
今までも顔合わせたことあったのかな」
「ええっ、ちょっと、まあ色々あって……」
と、藍人くんはうつむいたまま顔を上げない。
残念ながら、お互い次のセリフは頭に入っていない。ましてや、アドリブなんてできやしない。住宅街にシーンと音の無い音が響いた。熱帯夜だというのに、鳥肌が立つような肌寒さを感じる。
気まずい空気に耐えられず、私は「じゃあね」と立ち去ろうとした。けれども、私の足が1歩目を踏み出すか踏み出さないかの間に、次のセリフを思い出したかのように藍人くんがリアクションした。