「違います!
そんなんじゃなくって。
わたし、自作でバーチャルアイドルの動画、サイトにアップしてるんです。
そりゃ、プロが作った動画ほどじゃないけど、SNSの仲間には好評で。

でも、もっともっとレベルアップして、ルーナちゃんみたいになりたいんです!!」


むきになって説明したが、華子さんは無関心を決め込んだらしく再び目を閉じた。私の主張なんて、フロントガラスに張り付いた羽虫ほども気にならないのだろう。


羽虫以下扱いされたみじめな小娘に同情したのか、石井さんは「へー、すごいねー。なんて名前で出してるの?」と尋ねた。


「カリス……
カリス姫って、みんなには呼ばれてるんです」

『姫』なんておこがましいことは、重々承知している。聞こえなければいいと思いながら、消えそうなほどかすかな声で答えた。


「カリスだって?」


ずっと寝ていればいいのに、華子さんは人の上げ足をとるチャンスは決して見逃さない。パッチリと目を開くと、シートに背中をつけたままずけずけと言いたいことを口にした。


「カリスって美と優雅の女神だよ。
子リスとは両極端じゃない。
しかも姫って……
こんな庶民的な顔立ちで姫……くっくっくっく……
姫って……
そんな名前付けるなんて、ずうずうしいにも程があるね。
くくくくっっっ」


わざとらしく笑いをかみ殺す華子さんの話を聞き、腹が立つ前に、驚いた。それは、当の本人も初めて聞く情報だったからだ。


「えっ?!
カリスってそういう意味だったんですか?
りすかを入れ替えただけだったんですけど。
昔、ゲームのキャラかなんかでそんな名前聞いたことがあって」


「知らないでつけたのかい?
無知っていうのは恐ろしいね。
いや、これ位バカな方が、人生楽しいのかもね」


人を傷つけることに関してはドリル並みに威力のある華子さんの言葉が、私の小さな胸に穴を開け続けた。