私を言葉の通じない外国人のような顔で見、華子さんは大げさに首を傾け両肩を上げた。その口から「What?」と聞こえてきそうだ。私は口惜しくて、続けた。
「織絵ルーナはマンガとかアニメじゃないんです。
存在するんです。
華子さんには分かんないかもしれないけど。
ルーナはわたしの憧れの存在で……」
自然と胸をはった。
「わたしの将来の夢はルーナになる事なんだから!!」
「………」
私の主張が車内の響くと、すぐさま寒々しい空気が流れた。この数秒の沈黙の間に、さすがの石井さんも友好同盟の解消を検討しているようだ。
「石井。
この車さっきの病院に戻してさ、この子一度診てもらった方がいいんじゃないかね」
しれっと言う華子さんに、辛うじて同盟を結んだままの石井さんが慈悲(じひ)で反論を入れてくれた。
「いや、華子さん。
俺もウルトラマンになるんだって、本気で思ってたころありましたよ」
「ふーん、いくつの時さ」
「えぇーと……幼稚園の時かなー」
華子さんは実に嬉しそうにうなづいた。
「あー、あった、あった。
あたしもね、赤レンジャーのお嫁さんなるんだって真剣に考えてね。
小学校1年生だったかね」
ハァー、ハッハッハッと天下を取った戦国武将のごとく、華子さんは豪快に笑った。華子さんの高笑いが私をこれでもかと痛みつける。