この先、話題をふくらませられる自信などない。リアルでの会話を勝手に終わらせ、私は再びスマホを見た。『ナイトの国』はバーチャルアイドル 織絵ルーナの話題で盛り上がっている。私は新たなログを見て、思わず大声を上げた。


「きゃー、ルーナちゃんのライブ日程決まったんだ!!」

と無意識に大声を出すと、華子さんは振り返り

「なんだよ、おっきな声だして。
何事なのよ」

と、にらんだ。

華子さんに謝る私に、石井さんが味方してくれた。


「ルーナって織絵ルーナ?
好きなのかい?
俺の友達でもファンいるよ。
いろいろやってるんだよね。
DVD出したり、CМ出たり。
へー、ライブもやるんだ」


石井さんのおかげで、車内は一気に和やかな空気に包まれる。笑顔を交わすと、華子さんという敵を前に、私と石井さんは友好同盟を結んだ。


「そうなんですよ。
私も大ファンで。
去年もライブしたんだけど、あっという間にソールドアウトでわたし取れなかったんです、チケット。

あー、今年は取れるかなー」


ルーナちゃんのこととなると、私の舌もなめらかになる。


「へー、チケット取るのそんなに大変なんだー」

と無難な相づちを打つ石井さん。


「なんだよ、織絵ルーナって。
アイドルかい?」


毒舌女王も仲間はずれは不本意のようで、話に入ってきた。


「知らないんですか?
織絵ルーナ。
バーチャルアイドルです。
ネットですんごい話題なんですよ。
へー、知らないんだー」

と、私は全力で小馬鹿にしてみる。


さらに、反撃の絶好期を得たと、バックミラーごしに目のあった石井さんに目配せした。気づいた石井さんも加勢しようと、声のトーンを1オクターブ上げた。


「若い人の間で、人気すごいよな。
ちょっとしたアイドル越してるよね」


石井さんの話で『若い人』の部分に反応し、あからさまにムッとした華子さんは、負けじと反撃してきた。


「バーチャル?
ああ、アニメね。
見たことあるよ。
高校生にもなってアニメかい。
なんだよ、アニメのキャラがライブって。
アニメ映画の上映でもするのかい?」


「違います。
ライブ会場でルーナが歌うんです!」