「お話はゆっくり、中に入ってからしていただけませんか」


華子さんの無感情な声に私達の存在を思い出し、さやかさんのお母さんはハッとしてよそゆきの顔を作った。


「あらあら、すいません。
本当にお世話になりました。
何か、不都合はございませんでしたか?」


華子さんは眼鏡の奥で薄目を開けてさやかさんをにらむと、出来得る限り嫌味ったらしく

「いえ。
なにもトラブルはありませんでした。
な・に・も、ねっ」

と、語尾を強めた。


華子さんの嫌味に、さやかさんは両眉を上げて私に目線を送った。つられて私も両眉を上げる。


ほほ笑み合う私達はこの数時間で本当に友達になれたのかもしれない、なんて思ったのは私の一方的な片思いだったのだろうか。



病院に入ると早朝の病院は、日勤者もまだ勤務していないらしく、ガランとしていた。


のろのろと出迎えにやって来た中年看護師は「お疲れさまでした」と、儀礼的な挨拶をした。愛想笑いする元気もないらしい。


その看護師に、華子さんは簡単な申し送りをする。


受付前のソファーでは、さやかさんのお母さんと石井さんが書類やらお金やらのやり取りを始めた。