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二輪車用の駐車スペースは、フェリー後方の隠れた場所にある鉄の階段を降りた所に位置していた。そこでは十数台のバイクと5台の自転車が、持ち主が戻るのを待っている。


下船の準備をする乗客は、黒いスキーニーパンツを穿きこなした長身の美女以外まだいない。


天井の蛍光灯は切れかかり、ちかちかと不規則に点滅している。その灯りの中、浮かび上がるさやかさんの姿は葡萄色(えびいろ)のアゲハ蝶のようだった。


深夜に姿を現した二枚羽が、姿・形は似ていながら蛾(が)ではなく蝶であると断言できるのは、光に群がる蛾とは異なり、自らが光を放つそのプライドが見えるからだ。


「桐生さん。
自転車に乗ってどこに行くつもりですか?」


背後から華子さんに声をかけられるとさやかさんは、まるで予測していたかのようにゆっくりと振り返った。


羽を休めていた蝶は、捕らえらるのを待っていたかのようにさえ見える。そんなさやかさんからは、甘い蜜の香りが漂った。


「函館の街、久しぶりだから、観光でもしようかなーと思って。
五稜郭公園に行ってみたくなったの」