「あんたは義務教育どころか、幼児教育も受けてないのかい?
タイヤが4つ付いてたら四輪車でしょうが。
車はみんな四輪車よ」
「うーん、でもトラックとか6個とか8個とか付いたのもありますよね」
「それも四輪!
キャタピラーも戦車も四輪!
働く車に出てくるのはみんな四輪車よ」
華子さんの苛立ちは最高潮に達したが、私は手探りで探していた糸口をつかみかけた。それを手放すまいと、質問は続く。
「じゃあ、バイクは?」
「それは……二輪でしょ?ん?」
私が掴んだ糸口に気づいたのか、華子さんは首をひねった。その糸口を必死でたどり重い手応えに、心拍数が上昇する。私はたたみかけるように質問した。
「自転車は?」
「に……二輪?」
髪の毛ほどのか細い糸を慎重に手繰り寄せると、その先に付いてきた物に光を見い出した。興奮を抑えられず華子さんの両腕をギュっと掴み揺すると、頭がガクンガクンと前後に揺れた。
「ねえ、華子さん。二輪の出口って別にあるんじゃないですか?」
「いや、待って。
二輪車用の出口が別にあるとして、バイクに乗ってなかったら出られないよ。
バイクの人はそれで移動するんだから譲ったりしないでしょ。
だいたい、彼女免許持ってたか……」
「自転車なら?
ほら、よく上に自転車乗せてる車ってあるじゃないですか。
そんな車みつけて、持ち主に頼み込んだら、売ってくれたりしないかな」
「でも、そんな車見つけたとして、持ち主探し出すなんて不可能じゃ……あっ」
お互い指を差し合う2人が出した答えは、数秒のズレも無かった。
「アナウンス!!」
華子さんは私の目を見ながら、自分に言い聞かせるよう言った。
「さっきのライトが付いてたっていうアナウンス。
あれで、持ち主呼び出して、お金積んで。
そうだ、あの人、お金はたくさん持ってたはず」
私と華子さんは、初めて心が通じ合った……と信じたい。
この一瞬だけでも。
大きくうなづき合った2人の間に、着岸が近づいている事を知らせる船内放送が流れた。