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フェリーに乗り込んだ車は、1階にある車両甲板に全て駐車されていた。鉄の細い階段を下りると、地下室のような甲板は防犯上のためか夜間もこうこうと灯りがついている。そこには、鉄のさびと海の臭いが入り混じりただよっていた。
私達二人は鍵の開いている車が無いか1台ずつ確認していた。鍵の空いている車に乗り込んで隠れているかもしれないと思ったからだ。
「華子さーん。
やっぱり、鍵の開いている車なんてないですね」
自分では処理しきれない不安を抱え、同じ気持ちでいると信じ華子さんを見た。しかし、鉄の女は案外冷静だ。
「しかたないね。
後は、着岸して船から降りる時。
車に乗る人はそこの階段降りてこの甲板に来るし、徒歩の人は搭乗口から出るんだからこの2カ所を押えとけば出られないはず。
着岸近くなったら2手に分かれるよ」
私は大きく頭を縦に振った。
「分かりました。
でもね、華子さん。
わたし、やっぱり不思議なんですけど……
さやかさんって本当に病気なんですか?
話してても全然普通だしそんな、精神科の病院に入院しなきゃなんないようには見えないんですけど……」
「彼女が精神病を患っているかどうかなんてあたしにだって分かんないわよ。
医者じゃないんだから。
ううん、もしかしたら、医者だって絶対とは診断できないかもね。
彼女はドクターなんだから、精神病装うことくらいできるかもね」
「へー、さやかさん、お医者さんなんですか?
美人なのに頭もいいんですね」
私が感心していると、華子さんは宇宙人でも見るようにこちらを見た。
「子リス、あんた知らないの?
彼女のこと」
「えっ?
はあ?
あーー
でも、だったら尚更、精神病のふりする必要はないですよね」
「人の心の闇は本人にしか分かんないよ。
ほら、ごちゃごちゃ言ってないで、着岸近いよ。
あんたは上がって階段近くに隠れてな。
私は乗船口近く見張ってるから。
見つけたら絶対に逃がすじゃないよ。
上に『四輪車出口』って案内板あるから。
その近くにいな」
華子さんの言葉が何か引っかかる。潮の味が混じる空気を吸うと、頭に浮かんだ疑問が口から吐かれた。
「四輪車……四輪車ってなんですか?」