パタンと戸を閉めゆっくり生徒用玄関に歩きだす。すると、保健室の扉の横に妙に背の高い男子が立っているのに気づいた。


横目でちらりと見ると見覚えのない顔。目線をそのまま足元に移し上履きを見ると、最下級生を示す緑の線が……


1年生か。
おっきいなー


うつむいたまま目の前を横切る。と、その男子学生はもぞもぞとはっきりしない声で、後ろから呼び止めた。


「あのーー、えっと………
大丈夫……ですか?」


男子学生は自分で呼び止めたくせに、立ち止まり振り返る私から目線をそらす。彼の視線の先には床があるだけで、語りかける相手は見当たらない。


「えっと……あの……倒れたから……急に。
びっくりして……
あー、いやー、僕、近くにいて……
たまたま……たまたまです。
本当に」


言葉ははっきりと聞き取れなかったが、私のことを心配してくれているのは確かみたい。


それに、この声、聞き覚えが……
そう、この声は私の呼吸を誘導してくれた、まさに命の恩人に間違いない。


「あっ、さっき助けてくれた人?
保健室、連れてきてくれたの、君なの?」


身長150センチの私が、下から見上げて指さすと、男の子は返事もできず真っ赤な顔をしてますます横を向いた。

「………」
「………」

気まずい沈黙が続く。


なんか言ってよ。
私も、三次元の男子としゃべれるキャラじゃないんだから。
えぇっと、でも、助けてくれたんだよね。
保健室まで連れて来てくれて……


保健室までどうやって運んで来てくれたのかを想像し、私の顔は火がついたようにほてった。

「あの、えっと、ありがとうございました」


人間として最低限の義務を果たした、そう言い聞かせ、逃げるように速足で生徒用玄関に向かった。ところが、その男子学生は何も言わずついてくる。



いや、これは自意識過剰。
彼も帰るんだから玄関に向かうよね。速足の私と歩くスピードが同じなのは、リーチが違うから。

そうだよ。ついてくる理由がない。

私なんかに。
偶然、偶然。