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初めて乗ったフェリーは歩きまわると、入船時の想像よりも更に広かった。
船の中央には我が家のリビングより広いスペースにカーペットが敷き詰められたブロックが通路を挟んで10カ所。
後方に進むと、更に10カ所。
夏休みで旅行や帰省する人が多いのだろう。
乗船客は横になり、一つのブロックに8、9人はひしめき合っている。
真夜中ではあるが船内の灯りは薄暗く点いたままで、横になる人々は身を守るように頭まで毛布をかぶり寝ていた。微動だにしない大人たちの毛布をはぐわけにもいかず、できるだけ気づかれないように注意しながら顔をのぞきこんだ。目を覚ました人が、いぶかしげに私を睨む視線が痛い。
可能な限り1人ずつ確認したが、桐生さんの姿は見つからない。
その奥、リクライニングシートで寝ている人も、蛍光灯の灯りから逃れようと顔にタオルやハンカチを掛けて寝ている。そんな乗客たちを細心の注意を払い、捜しまわった。けれども、やっぱり見つからない。
休憩所の捜索を諦め中央廊下に戻ると、そこには人っ子一人いなかった。立ちつくす私は、ぐるりと周囲を見回した。
手前にはもう閉められた売店。
その隣にはゲームコーナー。
奥は大浴場。
その左は関係者以外立ち入り禁止のスペース。
2階のドアを開ければ、船内をぐるりと囲む甲板に出られる。
うわー、こんなに広かったら見つからないよー。