フェリーに車を停め階段を上ると、一行は石井さんが取ってくれた個室を目指していた。


確信犯の華子さんと、意図せず共犯になった石井さんは前を歩いている。

そして私の隣にはハードな黒いスキーニーパンツとウエストをキュッと絞った紫色のブラウスを着こなし、スタイルの良さを際立たせた美女、桐生さやかさん。お母さんのぶかぶかのTシャツと、急きょ昨夜洗濯し朝には生渇きだったジーパンを着る私は、並んで歩くのも恥ずかしいほどだ。


「ごめんなさいね。
こんな遠くまで付き合わせちゃって」


私の斜めになった機嫌に気づいたのだろう、桐生さんの綺麗な顔が申し訳ないと言いたげにゆがんだ。


「いえ、そんな……」


桐生さんには、何の非もない。私は取り繕うように、何度も首をふった。

「いえいえ、桐生さんが悪いんじゃないんで。
ちゃんと教えてくれなかった華子さんが悪いんですよ」


少し前を歩く華子さんに聞えよがしに言ったが、鉄の心臓には響かない。犯行現場を捕らえたビデオ映像を目の前にても、私ではありませんとしらを切り通す神経のず太さを持ち合わせているらしい。


「あら、莉栖花ちゃん。
吉元さんのこと、華子さんって呼んでるの?
じゃあ、私のこともさやかって呼んで」


私より20歳ほど年上であろう桐生さんは、少女のような顔でこちらを見ておどけた。


「えーとー、さやかさん。
わたし、北海道に行くって知らなかったからTシャツ1枚しか持って来なかったんですけど、向こうじゃ寒いですか?」


フフフッと上品にほほ笑むさやかさんは、まぶしいほどだ。


「北海道も8月は暑いからTシャツで大丈夫よ」


「よかった。
熊とか……出ませんよね」


少し前を歩く華子さんが振り返り、分厚い眼鏡を中指で上げながらギロリと見た。

「そんな、どこかしこで熊なんて出ないわよ。
北海道の人に怒られるよ」


「出ますよ」


さやかさんの冷静な言葉に、ポーカーフェイスの華子さんが珍しく、目を見開らき、聞き返した。


「えっ?」


「でも、まあ、今時期は町内には出ないかな。
キタキツネならよく見るけど」


恐るべし、北海道。