『聞いてみなよ』
と、私の中のポジティブが背中を押す。

『はっきりさせた方がいいよ』
と。


一方ネガティブは
『ほっとけよ』
と、顔をしかめる。

『どうせ大した理由じゃなくて、そんなこと気にしてなに勘違いしてんだよ。バーカって思われるぞ』
と。


ポ: でもさ、軽ーい感じで、前どっかで会ったけーなんて聞くなら大丈夫なんじゃない。
だってさ、ここまで着いてくるんだよ。
何かあるんだよ

ネ: お前は本当に脳天気だな。
自分に気があるとでも思ってるのかよ。
自意識過剰にも程があるぞ。

ポ: そこまでは思ってないけど、でもさ、ちょっと位意識してるんじゃない?
向こうから話かけてきたんだし。

ネ: アホか。
あれは挨拶だろ。
会話とは言わねーよ。
こういう気の弱そうなやつほど、クラスに戻ったら、3年女子に付きまとわれちゃってさー、まいったなーなんて言いふらすんだよ。
恥かくだけだぜ。




心の中の口げんかは明らかにネガティブが優勢だ。この手の喧嘩でポジが勝ったことは無いし、ネガを信じたことで傷つかずにすんだのも事実。


とりあえず、関わりあいにならないよう、器用に身をひるがえし、マンガコーナーに向かった。


マンガの単行本を手に取ると、どこからか音楽が。立ち読みしている女子中学生が私をにらみ、そこで初めてその音楽が私のカバンから流れていると気づいた。


音源のスマホを手に大慌てで、古本屋を出た。


自動ドアをくぐり、すぐにスマホを見ると、画面には『悪魔ナース』の文字が表示されている。気乗りはしない。悪い予感もする。しかし、ここで無視すると後々面倒なことになりそうだと予想もつく。


私は駐輪場の横に立ち、渋々電話に出た。


「はい、多部です」


「子リス、
さっさと出なさいよ。
あたしだって忙しいんだから」


案の定、華子さんのがらがら声が響き、私は思わず、スマホから耳を数センチ離した。


いや、華子さん。
まずは『こんにちは』じゃないですか?

『元気だった?』とか『今、電話大丈夫?』とか聞くのが、一般常識なんじゃ……


だいたい『子リス』って。


この人は意地でも本名で呼びたくないらしい。