エアコンも、カーテンを閉め切っていたから付けられていた室内灯も、同時に電源を落とした。

薄暗い部屋で、電源が自動的にバッテリーに切り替わったパソコンだけが映像を映し続け、私の顔を照らしている。


「りーーすーーーかーーーー!!!」

1階から地響きのような怒号が轟(とどろ)く。焦ってパソコンの画面をパタンと閉じ、強制的に電源を切った。


何度か経験している私には、すぐに察しがついた。

電気のブレイカーが落ちたんだ。ていうか、我が家の電気容量低すぎ。



ドンドンとラオウ(北斗の拳)のような、お母さんの足音が響く。築15年の我が家は震度1弱に揺れる。体中に湿布を貼っているとは思えないスピードで階段を駆け上がったお母さんは、私の部屋のドアを勢いよく開けた。


「莉栖花、今すぐパソコン止めなさい!」


いえ、言われなくても強制終了しましたから。へんな終わらせ方してDVD傷ついてないかな……と今さらながら心配になる。


「あんたねー、昼間っから部屋に閉じこもってエアコン、ガンガンかけてパソコンして!
少しは節電考えなさいよ」


「今のブレーカー落ちた原因、私だけじゃないよ。
お母さん、この暑いのにグリルでチャーシュー作ってたんでしょ。
エアコンも入れて」


楯突く小娘がしゃくに障(さわ)るのか、お母さんはますます目を吊り上げた。


「チャーシューは、お父さんの大好物なのよ!!
莉栖花の暇つぶしと一緒にしないでちょうだい。
とりあえず、チャーシュー作り終えるまでパソコンかエアコンは止めておきなさい!」



仏の顔に変身することなく、ラオウは黒王号に乗って部屋を出て行った。私は地雷を踏んで自爆したことを自覚し、大きなため息をついた。


部屋にいたらパソコン見たくなるし、エアコン止めたら私もパソコンも死んでしまう。その上、中古で買ったパソコンのバッテリーは2時間もたない。



私はカーテンの端を数センチだけ横にずらし、窓の外を見下ろした。


車の往来がほとんど無い自宅前の路地では、小学生が4、5人ボールを蹴って遊んでいる。

朝の涼しいうちに宿題を終わらせた優等生なのか、あるいは、宿題なんてとっくに放棄した強者なのか。

前者だとしたら、意気投合出来そうにない。