ふらついていた足が私の体重を支える仕事を放棄する。
もうちょっと頑張ってよ。
ほら、もう一歩前に出て。
前に出るはずの足が予定外に止まってしまったがために、上半身はバランスを崩した。
膝から崩れ落ちるように前のめりに倒れていく。
ロングヘアがゆっくりと前に流れ、私の顔を覆い隠す。
髪の毛の隙間から見える風景は、スローモーションになった。
ああ、だめだ。
もう……
………たお…れる………
しかし、次の瞬間……
長い腕が後から私の両肩をがっしりと抱きかかえ、膝をつく寸前で難を逃れた。
だっ……
……誰?
持ち主不明の腕に支えられ頭を下げながらやっとの思いで立っていると、初めて私の存在を認識した数組の外靴が近寄り取り囲んできた。
「どうしたの?」
「おい、大丈夫か?」
「えっ?なに?熱中症?」
ボカロの音声みたいに無感情で流れるその言葉に、私の呼吸はますます速くなり全身の力が抜けていく。
地面を見つめる私の視界に入ってきた黒いズボンのすそやスカートのプリーツが揺れている。風が吹いているからではなくて、めまいしているからだろう。
そんな私の耳に、身体を支えてくれている主(ヌシ)の低く穏やかな声が心地良く響いた。
「ゆっくり……
ゆうっくり呼吸して」
いえ、呼吸してるけど苦しいんです。
苦しいから速くなるんです。
「息吸って
口からできるだけほそーく
少しずつ吐いて
全部吐ききって……
全身の力を抜いて。
はい、もう一度吸って…
ゆっくり吐いて…」
はい……
ゆっくり呼吸するんですね。
催眠術にでもかけられたかのように言われるがまま呼吸をしていたら、不思議と手の痺れが消えた。
呼吸も
……楽に
……なって
………き……た……
本当に催眠術にかけられたのかもしれない。呼吸が楽になった安心からか、急に睡魔が襲ってきた。
昨夜、深夜ラジオを聞いた後、いろいろ考えちゃって眠れなかったからだろうか。
そして私の意識は、深い闇に落ちていった。