病院を取り囲む雑木林からは、夏の終わりを惜しむかのようにセミの鳴き声が響いていた。

食堂のパイプ椅子に座るさやかさんは頬杖をつき窓の外を眺めている。間の悪いセミ達を心配しているポーズで、本当の気持ちを誤魔化しているのかもしれない。


向かいに立つ華子さんは医療専門職の顔でさやかさんを見つめて、その心理を探っているかのようだ。


藍人くんは、私を背中から抱きしめている。



画面を見続けることに耐えられず、周囲の景色に一瞬気を反らした。それでも逃げることはできまいと覚悟を決め、もう一度スマホを見た。


にじむ涙で、画面の文字が揺らめく。でも彼らはいつも通り、そこにいた。


ああ、間違いない。
悪い夢でもない。


『ナイトの国』には普段の数倍の住人が集まり、かつてない速さでログは更新され続けている。


そこにはネットの会話という、現実(リアル)があった。