私の気を反らすように、みゅーの声色は変化した。


「まっ、これからは気をつけなさいよ。
ネットに詳しいって言ってたくせに」


「でもね、タマミさんの家……その写真撮られた家ね、そこに行った次の日には気づいて……
位置情報、解除してるから、もうこんなことは起こらないはず。
ねえ、もう大丈夫だよね」


気休めでも安心したくて泣きついたが、みゅーはあっけらかんと「さあねー」と言ってのけた。

みゅーの赤いパジャマにプリントされたさくらんぼが、ダンスするように揺れる。


彼女はその容姿とは正反対で、甘味料を一妻排除したグレープフルーツジュースのような性格をしている。苦みを含んだ強い酸味は、言いたいことをずけずけと言う。


『相手が自分の事をどう思うのだろうか』とか『こんな事言ったら、みんなになんて噂されるんだろうか』といった、私が一番大切にしている邪念が、みゅーの中には存在しないらしい。


ウジ虫の私とは真逆なその性格が羨ましくもあり、憧れもする。

だからだろうか。
彼女と話していると腹は立たず、心地いいとさえ思える。


誰かに……似ている。


私の中で彼女とリンクする人物が現れそうになった。けれども、その映像は白いもやがかかり、フッと消えて行った。


私はテーブルに片手で頬杖をつき、ささやかな抵抗で先輩ヅラしてみた。


「ねえ、みゅー。
みゅーって高2だよね」


「うん、でも誕生日きたから歳は17歳。莉栖花の一つ下」

と、みゅーはタメ口も呼び捨ても修正しない。


「一応、私の方が先輩だよね。
なんか全然、そんな感じしないんだけど。

だいたいさ、私達、昨日初めて会ったばっかりじゃない。
なんで、こんなに話やすいんだろう。
なんか、会うの2回目って感じがしないんですけどねー」


私のぼやきを聞き、みゅーは両眉を上げておどけた表情を作った。そりゃ、かわいいけど、そんな顔をしたってとても年下には見えないから。


「そうだねー
……
もしかしたら私達……

ずっと前から、友達だったのかもしれないよ」


美しい顔から発せられた、意味深な言葉。

みゅーの瞳がきらりと光ったような、そんな錯覚に私は謎の世界へ足を踏み入れるのをためらった。