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「あー、すっきりした。
見たかい?あの総一郎の顔」

クックックッと笑う華子さんと並び、私は病院の裏口を出た。相変わらず足元の悪い、波打つ駐車場のアスファルトをトロトロと歩く。

夕刻と呼ぶにはまだ早い時刻。太陽はギラギラと照りつけ、痛いほどの日差しを脳天に浴びせた。


上機嫌の華子さんとは対照的に、私の心にはすっきりしないわだかまりがへばりついたままだった。病院の帰る途中、数分間の渋滞もどきが、なぜだか心にひっかかる。


「ねえ、華子さん。
やっぱり変じゃないですか?
さっきの車の流れ悪かったのって、渋滞っていうより、私達の車を取り囲まれてたみたいで……

なんて言うか、こう、私達の仕事を邪魔してるっていうか」


「なんだい、その被害妄想。
あるんだよね、そういう病気。
周りがみんな自分の敵に見えるっていうの」

と華子さんは相手もしてくれない。


まあ、確かに現実的ではないことは分かっているが……


日曜日、外来の診療も休みだからだろう、病院の駐車場は前回訪れた時とは打って変わってガラガラだ。それでも、遠慮深い石井さんの車はその体格に引け目を感じてか、隅っこに駐車していた。


華子さんは一仕事終えた充実感と仕事完了のサインの入った業務報告書をカバンにしまい、軽快に歩く。けれども、私の足取りは重い。


ごきげんの華子さんは何か思いついたらしい。わざとらしくポンっと手を叩いた。


「あー、分かった。
あたしのファンがついてきたんだね。
ほら、昔イギリスのお姫様がそれで交通事故おこしたじゃない。
そうそう、パパラッチ?
人気者は辛いねー」


そんな冗談も今は笑えない。


「うーん、ていうより悪意を感じるんですよね。
ほら、この前のタマミさんちの仕事だって、結局窓が開いてた理由分からなかったし。
私達の仕事、じゃましてるみたいなー」


「だとしたらターゲットはあんただね。
あたしは誰かに感謝されこそすれ、恨まれるなんてことはあり得ないからね。絶対!」


胸を張り断言する華子さんの自信が、どこからくるのか、教えて欲しい。

「本当かなー。
あっ、そういえば華子さん、明日はなんの仕事なんですか?
わたし、明日は約束あるから手伝えませんよ」