さすがに、大川さんも疲れたのだろう。病院に着いた時には眠っていて、最後の挨拶では薄く目を開けうなづくだけだった。それでも『今日は1日ありがとう』と、言ってくれている気がする。私の心は、子猫を抱いたようにポッと温かくなった。


一連の仕事を終え、最後にナースステーションに寄る華子さんは勇ましい。その背中には、責任を全うしたプライドが見える。

本日の大川氏担当ナースは、口頭での説明を一切、省略して紙切れ一枚を総一郎師長の胸元に押し付けた。


「はい、これ、大川さんの看護記録。指示は全部守りましたから」


ぶっきらぼうな口調にも、派遣ナースの責務が込められているようだ。


しげしげと渡されたメモを見ていた師長は、ナースステーションを出ようとした華子さんの肩を掴んだ。


「おい、華子。
ちゃんと説明してもらおうか。

14時25分、酸素吸入の流量、上げてるよな。
病気による苦痛が出たからなんだろ。

だがな、病院で薬を飲んでから4時間以上たってたんだから、この場合、酸素流量を上げるより、内服薬を使った方がよかったんじゃないですかね。
その方が、身体への負担も少なかったと思うんですが。
どういう判断で、酸素の選択をしたんですか?」


責任を追及するような視線で見つめる総一郎さん。その右手を肩から払い、華子さんは看護師というプライドを見せた。


「総一郎師長。
この薬の副作用は?」