「それでも、まさかなーって思ってたんです。
半信半疑で。

だって、そんな偶然信じられないでしょ。
遠い宇宙の彼方にいた憧れの人が、こんなすぐ近くにいるなんて。
僕のすぐ近くに住んでて、もしかしたら会ったことあるかもしれないなんて。

それで全国の地方ニュースとか、各地の保健所のホームページとか調べたんですけど、やっぱりこの日、食中毒に合った高校ってここしかなくって。
確信したんです、この高校だって。

だから僕、決めたんですよ。
志望校を、この高校に」


「えーー。
そんなことで志望校変えたの?
お母さん、怒らなかった?」


「うちは放任なんで……
塾の先生は気がふれたのかって、呆れてましたけど。
でも、少しでも近くに行きたかったんです。

だって今までネットの中でしか知らなかった人と、同じ建物の中にいるんですよ。
カリス姫が吐いた空気、僕が吸ってるかもしれないんですよ。
カリス姫が歩いた廊下、僕も歩いてるかもしれないんですよ。
すごいでしょ」


藍人くんの初めて見せる表情に、どんどん引いて行く自分を感じる。体も無意識に後ずさりし、それに気づいたのか藍人くんも慌てて声のトーンを抑えた。

「ごめんなさい。
ごめんなさい。
でも……でも……

入学したらすぐに分かるかなーって思ってたんですけど、全然手がかりなくて。
3年生だとは分かってたんですけど、3年の教室行く勇気ないし、部活入ってないから上級生との接点もないし……

あきらめかけてたっていうか、ここまで接近できただけで満足したっていうか。
どっかで会ってるかもしれないって想像して、ネットの中で会えればよかったんです。


それがね、ある日。
忘れもしない6月27日の朝。

ちょっと寄る所があって、いつもと違うルートで学校に向かってたんです。
信号待ちでスマホ見たら、カリス姫のツイッター更新されて。
『公園で友達待ってる 犬がつながれてて怖いよー』って。

へー、犬嫌いなんだーって新発見喜んで、ふと横見たら児童公園に女子高生がいたんです。
大型ブランコに乗って、繋がれてる犬と、にらみ合ってるんですよ。
まさかと思ったんだけど、その場から動けなくなって青信号3回スルーして。
そしたらその子、スマホ取り出してなんか打ち込みして……ツイッターも更新されて。

運命、感じたんです。
いや、一方的なんですけどね。
思いこみって、エネルギーですよね。

だから、その後、そっと後つけて……

そっからは、あらゆる手段つかって莉栖花さんのクラスや住所、調べたんです。

ごめんなさい。
でも、そこまでで。
リアルで声掛ける勇気まではやっぱり無くて。
で、あの終業式の日なんです」


自分の気持ちを一気に話し終え、藍人くんは満足したように大きくうなづいた。