「でもね、藍人くん。
なんでそれがわたしだって分かったの?

わたし、個人情報には気を遣いすぎる位、気を付けてたのに。
ツイッターの写真だって絶対顔出ししないようにしてたし、個人が特定できる情報は一切カットしてたはずだよ。

なのに、なんでわたしだって分かったの?」


私の疑問を、藍人くんは順を追って説明した。


「莉栖花さんのブログ読んで、僕すっかり莉栖花さんの……ていうかカリス姫のファンになったんです。

動画も発見して見尽くして、ツイッターも毎日チェックして……

でもね、リアルで会うなんて絶対無理だってことは分かってたんです。
だって、この広い日本ですよ。
どこに住んでるかも分からないし、何してる人かも……、もっと言えば男か女かも分からないし。

だから、僕はカリス姫のブログや動画を見れればそれで幸せだったんです。
僕にとっては芸能人みたいなもんで……
憧れててて、どんな子かなーって想像してるだけで幸せだったんです。

それが、それがですよ!!」


急に大きくなった藍人くんの声に、ギョッとした。


「藍人くん、ちょっと声おっきい」


「ある日……中3の9月。

いつも通りカリス姫のツイッター見てたら、まっ、はっきりは分かんないけど修学旅行中みたいな書き込みしてて。

沖縄なのかなーって、想像しながら見てたら『泊まったホテルで友達が食中毒になったみたいだ』って書いてあったんです。
へー、そんなことあるんだなーって思いながらテレビつけたら、丁度ニュースで……地方版のニュースで、地元の高校が修学旅行中に集団食中毒にあったって報道されてたんですよ。
僕もう、驚いちゃって。
すごくないですか?」


興奮し自分の世界で話し続ける藍人くんを私はもう一度、制した。


「藍人くん、ちょっと落ちついて。
声のボリューム抑えて」


けれども私の声は耳に入らないらしく、藍人くんの声は興奮が冷めない。