「おじさんはね、まあ、インターネットとかはそんなに詳しくなくってね、よく分からないんだ。
でも、その中だってつながっているなら人間関係なんだから、それはそれでいいと思うよ。

ただね、もうすぐ人生を終えるからこそ特に思うんだが、人生なんて本当にあっという間でね。
こんなこと言ったって莉栖花ちゃんにはピンとこないだろうけど、振り返ってみたら一瞬なのさ。

しかもね、生きてさえいればいつでもできるってわけではなくて。
今だから出来ること、今しかできないこともあるんだよ。

この時期を……チャンスを逃したら後10年……いや、5年先にはできないかもしれないこともある。
というより、できない事の方が多いのさ。
若い莉栖花ちゃんは実感できないだろうけどね」


息つかず話す大川さんが心配になったが、彼はまだ伝えたいことがあるのだろう。一度大きく息を吸うと、かすれた声で続けた。


「いや、分かるよ。
人の目とか気になるさな。
どう思われるんだろうとか、なんて噂されるんだろうとか、そんなの大人になったって気になるよ。
気にしなくなっても困るしね。

でもね、ほんのちょっと勇気だしてやりたいことやったほうが、後悔しないって時もあるんだ。
人生振り返っても、やった後悔より、やらなかった後悔の方がでかくてね」


ここまで一気に言うと一息つき、何か妙案が浮かんだように大川さんは表情を明るくした。


「そう、そう。
こう考えてみたらどうだい。

明日で世界が終るって」


「世界がですか?」


突拍子もない発想に、私の目は丸くなった。


「そう、まあ理由なんてなんでもいいさ。
隕石衝突でも火山の大噴火でも。

なんにしても明日、世界が滅亡するのは決まってる。
だから、明日にはここにいる誰もがいなくなってしまう。
そう考えたら、今日1日やりたいことを人目を気にせずやっていいんじゃないかい。
誰になんと思われようと、明日には世界はなくなるんだから平気だろ。

まっ、ちょっと極端だけど。
それでさ、もし何かのミスで明日が来たとしたら、そりゃあサービスタイムさ。
その日1日、やりたいことを思いっきりしてごらんよ。
恥かいたって、誰かに陰口叩かれたっていいじゃないか。
莉栖花ちゃんの1日なんだから。

1日だと実感、湧かないかな。

例えば1年。
1年後には誰もいなくなるって思えたら、この1年間やり残したことはないように思う存分やってごらんよ。

そりゃあ犯罪はだめだけど、誰にも迷惑かけないことならいいじゃないか。
莉栖花ちゃんの人生なんだから」


大川さんは体にいき渡らない 酸素をかき集めながら、一生懸命話し続けてくれた。消えてしまいそうな声を精一杯張って、私に伝えようとする大川さん。その目を、私はジッと見た。