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花嫁の入場を合図するように、オルガンが奏でられる。1小節聴いただけで、これから何が行われるか分かる音楽だ。


チャペルの重厚な扉は、すぅーと左右同時に開かれた。開いたドアに気づき、バージンロードを挟んで座っていた参列者は一斉に振り返る。皆、ウエディングドレス姿の真っ白い花嫁を目を細め眩しそうに見つめた。


祝福の視線が熱い。正面にいる石こう像のマリア様でさえ主役の座を明け渡し、静かに微笑んでいる。


壁は一面、なんの曇りもなく真っ白で、中央に立つ神父さまの黒い祭壇着を浮かび上がらせていた。

そして天井を埋めつくすのは、ステンドグラス。
赤、緑、黄色……
色とりどりのガラスが幾何学的な図形を作り、太陽光に反射している。花嫁の行く手は彩どられた光の中きらきらとまばゆいほどに輝き、その入場を心待ちにしているようだ。


綺麗。
本当に綺麗。


その美しい光景に、仕事も忘れてうっとりした。車いすを押すのも忘れ、茫然としていると、スタッフが早く歩けと私の背中を押した。


動画サイトでも見たことがある。入場者は一歩ずつ、足を揃えてはその足を前に出す。こんなことでもなければしないであろう動作を、私も見よう見まねで行ってみた。


バージンロードの上に立つ一行に熱い眼差しを送る参列者は、みな一様に幸せそうだ。主役達とどのような関係なのかは知らないが、この場に水を差す無粋な人はいないらしい。


もう一人の主役である花婿も、自分の役割は十分すぎるほど理解している。美しい花嫁を自慢げに見つめ、胸を張った。


華子さんがエノキダケと表現した花婿は、確かにちょっと頼りないフォルムではあるが、紛れもなく王子さまだ。


花嫁の年齢は聞いていないが、私より十も上ではないだろう。つまり、普通にいけば私にもこんな時間がそう遠くない将来訪れる……なんて、やっぱり想像もできない。


赤い絨毯を歩き終え花嫁を白いタキシードの男性に引き渡すると、実質、大川さんの仕事は終了となる。

複雑な表情を隠しきれない奥様の横に移動すると、やっぱり腹の虫が収まらないのだろう。彼女は、夫の存在を自身から消去したかのように無視した。


そんな熟年夫婦のトラブルとは無関係に、人生において最高に幸せな儀式は進行する。優秀なスタッフの高い仕事能力のお陰で、何一つ無駄なくトントン拍子に執り行われていった。