私の動揺は、藍人くんの比ではない。


私はパニックになり
「えっと、いや、あの……うんと」
と、意味の無い言葉を繰り返した。

治りかけていた傷がぱっくりと口を開きそうで気をもみ、上手く会話できない。


「莉栖花さん……
なんか、いつもと雰囲気、違うっていうか……
あのー、こう……
かわ………」

と、藍人くんは照れながら、何かを伝えようとしている。


藍人くん、何を言い出すの?
えっ⁈
かわ……って、なっ、なんて続くの?


「かっ……
かわい……
………
いっ……
いえ、なんでもないです」


最後まで言ってよ!


「あの……バイトでね。
うん、バイトなの。
車いす押して、バージンロード歩かなきゃなんなくて……

藍人くんは?
なんで、ここに?
あれ?
もしかして結婚式、呼ばれてるの?」


「いや、僕はそっちで……」
と、藍人くんは渡り廊下の先を指差した。

2人が対面したエントランスは正面に、隣の建物につながる渡り廊下があった。


アゴを突き出し、隣の建物にいる人々に目を凝らす。そこには黒い服を着た集団が見える。まさか、黒ミサでもないだろう。


「そっちの建物……って?」

と、思わず尋ねる私に、藍人くんは

「あー、そっちは葬儀場になってるんです。
今日は知り合いに不幸があって、参列しに……」

と、説明した。


この辺りでは名の知れた結婚式場は、同じ会社の経営なのだろう、葬儀場とつながっていたらしい。なんとも画期的………と言っていいのかな。