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「すごいわー。
150センチの子供服がぴったり。
靴も22センチなんて、とても高校生とは思えないわ。
ほら、バスト周りもぜーんぜんきつくないし。
えっ⁈3年生?
ほーんと、奇跡ね。
奇跡」
ニコニコとほほ笑むグレースーツは、その柔らかな表情とは裏腹に、毒舌でピシピシと私を傷つけた。
「お嬢様、お顔が薄くてらっしゃいますから、メイクのしがいがございましたわ。
腕がなりますぅ」
メイクしてくれた美容師さんは、丁寧な言葉使いで無礼な発言をごまかした。
でも……と私も思う。
たしかに奇跡かもしれない。鏡に映る私は、初対面の別人だった。
ひざ丈のスカートがふわりと広がる水色のドレスも、
ヘアアイロンでくるくるとカールされた髪も、
美容師さんの技術を集結したアイメイクで倍に大きくなった目も。
なにを取っても初体験の変身技。
鏡に顔を寄せ、自分自身の姿にしばし見惚(みとれ)れてしまった。
私ってこんなに変わるんだ………と自分の潜在能力よりも、日本の最先端技術に驚嘆(きょうたん)し、賛辞(さんじ)を送りたくなった。
真っ白なキャンバスに思い通りの作品が描けたらしく、美容師さんは満足気だ。鏡の中で私と目が合うと、大きく頭を上下に動かした。
一緒にメークをしてもらっていたベールガールが、隣に座っている。彼女がライバル視する視線が痛い。
たぶん小学2、3年生なのだろうが。
のんびりしていると華子さんの怒りの鉄拳をくらう。「じゃあ戻ります」と告げると、グレースーツは「後でお伺いしますね」と上機嫌。いけすかない派遣ナースの鼻をあかせたと、自分の好判断に満足しているのだろう。
メイクルームを後にした私は、履きなれないハイヒールに苦戦した。
それでもピンと背筋を伸ばして立つと、身長がぐっと伸びる。靴の高さ分、大人の女性になれたような気がして心が晴れやかになった。
通りがけ、通路の壁に姿見があった。きょろきょろと周囲を見回したが、誰もいない。「よしっ」と、両手を広げながら鏡の前でくるりと回転してみた。
スカートは傘のように広がり、巻き毛が柔らかく揺れる。鏡の中の私はコマ送りで、一コマずつベストなショット静止する。
私の動きに合わせて、カリス姫の最新動画が脳内で再生された。鏡の中の私とカリス姫がシンクロする。
小首を傾げてニコッと微笑む。
バックの白い壁紙が薔薇の花柄に彩られ、その花びらが私の笑顔に合わせ、ひらひらと舞い落ちた。
リアルの自分にカリス姫が乗り移ったような、あるいはリアルでもカリス姫になれたような気分になった。奇跡は続いているのかもしれない。