「ご家族様の控室はこちらでございます」

式場スタッフに案内された部屋。

披露宴会場のすぐ横に位置するその部屋には、一流ホテルの一室のように高級家具が並ぶ。いくつか並ぶ控え室の中でも一番広いのだろう。


けれども、華子さんは部屋に入るやいなや、せっかく置かれた家具達に敬意を払うでもなく、邪魔ものあつかいで隅に追いやった。彼女のやり方があるらしい。


「まったく、邪魔なのよね」

なんてズケズケ言うもんだから、私の方がハラハラする。


そんな華子さんの仕事ぶりをじっと見るスタッフは、不愉快な本心を持っていたバインダーで隠した。


華子さんと同年代のベテランスタッフは
「申し訳ございません。気が付きませんで」
と謝罪したが、その声に感情はこもっていない。


そして、身にまとうスーツの深い灰色と同じくらい義務的に、この後の流れを説明し始めた。


「………という流れになっております。
えー、ところで、花嫁様ご入場のとき、お父様は車いすで一緒に入られます……よね。

はい、ええ、大丈夫でございます。
そういたしましたところ、車いすはどなたが押していただけるのでしょうか」


「私が押しますよ」


華子さんは胸を張った。当然だろうと言わんばかりに。そんな華子さんの顔と服装をグレースーツはしげしげと見た。


「はあ、こちらの方が………」
と首を傾げ、げんこつをアゴに当てるスタッフを、華子さんは不満気に

「なにか問題でも?」
と、問い詰めた。


「いえ、いえ、問題というわけでは……
ただ……まあ、ちょっと、地味でらっしゃると言いますか……
バージンロードでございますしねー」


『バージン』の部分に、必要以上の語気が強められている。「ホーホホホホホッ」と心の中の高笑いが聞こえてきそうだ。

華子さんは険しい顔で睨み、2人の間には熱い火花が散った。