玄関で出迎えた式場のスタッフに案内され、親族控室に向かう。すると、控室前のフロアで若い女性の声に呼びとめられた。
「お父さん、大丈夫?」
見ると真っ白いウエディングドレスに身を包んだ美しい花嫁。ドレスの裾を片手で持ち上げながら、駆け寄ってくる。
式場に着き、初めて大川さんの目が開けられた。花嫁の姿を見た瞬間だけ、大川さんは頬を緩めたが、形状記憶合金のごとくシワはすぐにもとに位置にもどされた。
「体調悪いの?
どこか痛い?」
花嫁は眉を下げ、心配そうに大川さんの顔をのぞきこんだ。それでも、大川さんは意地でも花嫁を見るまいとしているかのように顔を背けた。
「大丈夫だ」
いつのまにか花嫁に寄り添うように、白いタキシードの花婿が立っている。花婿は背筋をピンと伸ばし、深く頭を下げた。
「おとうさん、今日は本当にありがとうございます」
「別にお礼を言われる筋合いはない。
娘の結婚式なんだから、出るのは当たり前だ」
大川さんにぴしゃりと言われ、新郎は肩をすくめた。
頑張れ、新郎。