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結婚式参列ご一行は、ワゴンいっぱいの荷物と一緒に介護タクシーに乗り込んだ。目的地は、私の街でも有数の大きな結婚式場で、高校生の私でも名前くらいは聞き覚えがあった。
それにしても、なぜなんだろう。
私は不思議な気持ちで、大川さんの顔をチラリと見た。
介護タクシーの後部座席。
車いすに横たわる大川さんは目を閉じ、石こうで固められたかのように眉間のシワを1ミリも崩さなかった。
病気による痛みも今は薬で抑えられていると、華子さんは言った。
じゃあ、なぜこんな表情をしているのだろう。
「いやー、多部さん、久しぶりだね。
元気だった?」
介護タクシーの運転手 石井さんは車のハンドルを左にきりながら、助手席の私にニコニコとほほ笑み掛けた。
石井さんとは、北海道への大旅行以来。
もう、会うこともないと思っていたのに今日も一緒に仕事できるなんて、何かしらの縁を感じる。
「また、石井さんと仕事できるなんて嬉しいです」
私のお愛想にまんざらでもない様子で、石井さんは「いやー、俺もだよ」と照れ笑いで返した。
石井さんのおかげで車内の重い空気が少しだけ和んだ。そうでもなければ、今日のメンバーの重い空気に耐えられない。幸せのおすそ分けを期待した結婚式が、お葬式の参列ほどの暗い気持ちになっていた。
式場に到着し、車から降りても大川さんの表情は変わらなかった。
娘の結婚式というのは、親にとって人生でトップテンに入るくらい嬉しい時なのだろうと思っていたのは、若輩者の浅はかな考えだったのかな。と反省したが、式場に先に来ていた大川さんの奥様の幸せそうな顔を見ると、さほど間違ってもいなかったようだ。