「はい、はい。
部屋着に着替えてきます」


説教から逃れる口実をみつけ、これ幸いと自分の部屋に逃げ込もうとした。けれども、お父さんはすっぽんのごとく離さなかった。


「部屋着って中学時代のジャージか?
莉栖花、お前、外に着て行く服だって、ずっと買ってないんだろ。
服買う金あったら欲しい物買いたいとか言って………」


お父さんは舞台俳優並みのオーバーリアクションで私の進路をふさぐと、そのまま舞台袖(テレビ横の戸棚)に方に移動し、レターケースから宝物でも取り出すように厚手の用紙を取り出した。


「で、挙句(あげく)の果てがこれか?」


お父さんは私の目の前にA4の紙を広げた。


「莉栖花、このこと忘れたわけじゃないよな」


ああ‥‥

私は心の中で頭を抱えた。
その紙は、カード請求会社からの利用請求。金額は66320円也。


「夏休み中、お父さんの仕事手伝ったらバイト代払うぞ。
それで借金返したら、おこずかい停止期間が短くなるんじゃないか?」


そう、私はとある事情でお父さんのカードを勝手に使ってしまいました。


ううん、後悔はしていない。カリス姫の動画は格段に動きが良くなったし、映像も綺麗になった。ただ、カードの不正利用はひと月後あっけなく発覚し、私に残された選択肢は二つ。


1年間のお小遣い停止

半年間の携帯電話使用禁止。


携帯電話が使えなくなると命にかかわるので、究極の選択はお小遣い停止に決定した。


バイトをしたら、その期間が短くできる………


「私が乗ったってなんにもできないよ。
ヘルパーの資格持ってるわけじゃないんだし」


私のせめてもの抵抗を軽く受け流し、お父さんは顔の前の虫でも払うように手を左右に振った。


「いんだ、いんだ。
地図を見てくれたり、運転中電話が鳴ったら出てくれたり、道路に車とめた時車の中に残っててくれるだけでいいんだから、なっ」


なっ……って。


でも現実問題、私に選択肢は……ない。


「分かった。
やります。やらせてください」


深く頭を下げる私の姿に満足し、父親は一瞬して雇い主に変貌した。


「よしよし。
じゃ、さっそくだが明日、朝9時出発な」
と、声を上ずらせる多部ハッピータクシー社長。




「え~、明日からー?」


私は、
ガクッと肩を落とした。