「それならいいの。
でも、じゃあカリス姫のことどこで知ったの?
だいたい、わたしがカリス姫だってどうして分かったの?
わたし、個人情報には慎重すぎるほど警戒してて、ツイッターなんかにも顔写真は載せてなかったし、個人が特定できる書き込みはしてなかったのに」
「ええっーと、それは……
あのー、うーんと
どこから話したらいいんだろう。
えっと、初めは……」
藍人くんは再びドギマギとし始めた。ひとしきり迷いの言葉を並べた藍人くんは真剣な眼差しで私を見つめた。
「莉栖花さん、僕、今、上手に説明できなくって。
ちゃんと、順を追って説明するんで。
近いうちに絶対。
約束します。
だから……」
彼はぐっと顔を寄せ、言葉に力を込めた。
「お願いだから、僕のこと嫌いにならないでください」
藍人くんの必死な表情とまっすぐな言葉が、私の心の今まで誰も触れなかった場所をキュンと締め付ける。息苦しいほどのその痛みに必死で耐えた。
現実を受け入れ落ち着きを取り戻したというのに、なぜ彼は再びかき乱すのだろう。
これで終わりにしようと、私は強く誓った。
もう、藍人くんと会うのはやめよう。
藍人くんが飽きるのを待っていられない。
リアルで絡むのはもう避けよう。
それが一番傷つかない方法だ。
申し訳ないが、今日はタマミさん捜すのは手伝ってもらって。お礼は、今度カリス姫の動画、全力で作るからそれで許してください。
私は本心を隠し、2つ年上の大人を演じた。包み込むような、ほほ笑みを作る。
「ばかね。
そんなんで、別に嫌いになんかならないよ。
いいの、説明なんてしなくっても。
大した事じゃないんだし。
ごめんね、今日は悪いけど、タマミさん捜すの手伝ってね」
私の言葉に藍人くんはほっとしたのか、小学一年生ばりに「はいっ」と元気に返事した。
その返事の大きさに驚き、痴話げんかを終えた大人2人がこちらを見た。
「それにしても、華子にこんな可愛い知り合いがいたなんてなー」
まじまじと私達を見る総一郎さん。その視線が痛い。
そんな可愛いだなんて……
中年男性でも褒められると、悪い気はしない。
総一郎さんは穴が空くほど私を見つめ
「いや、ほんっとかわいいなー」
と、言いながら近づいた。
そんなに何度も言わなくても……