「それから……
もうひとつ訊きたいんだけど。
藍人くん、カリス姫のことどこで知ったの?
動画だって、偶然目につくような公開の仕方してなかったのに」


「えーーと、それはー
……あのー」


歯切れ悪い藍人くんに我慢しきれず、私は問題の本質に切り込んだ。


「藍人くん。
ナイトの国の住人……じゃないよね」


私は藍人くんの目をじっと見つめた。その瞳が嘘で曇らないか見極めようと。けれども予想に反し、藍人くんはキツネにつままれたような顔をした。


「え?
ナイトの国ってなんですか?」

藍人くんの表情に、演技は感じない。


「本当に、本当に知らないのね。
嘘じゃないよね」


「本当です」

反射的に答えてから、藍人くんは返答を強調した。

「神に誓って知りません」


「よかったーー」



「たー」で吐ききった息と一緒に、心の中のもやもやが空気に紛れ消えていった。私は最後の砦(トリデ)を何とか守れたらしい。最悪の結末は免れた。

リアルの私はみじめな小娘だが、これでまたネットに戻れる。


ネットの中にいれば、私はいつでも、自信満々のアクティブでかわいいお姫様。みんなのアイドルで、言いたいことをバシバシ言って、やりたいことドンドンやって。それでも嫌われないし、嫌われたって平気って思える。


藍人くんだって、どうせ……


不安そうな表情で私を見つめる藍人くんに、視線を返す。


藍人くんだって、リアルの私がカリス姫とは正反対だと知ったら自然に離れていく。そうに決まってる。それでいい。

自然に私の前から消えて、それでもカリス姫のファンなら、ネットの中だけで絡んでくれればそれで十分。


私の中でごろついていた蟠(ワダカマ)りが消え、清々しい風がそよぐ。ひきつらない、心からの笑顔が作れた。