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「子リス。
あんたってさ、ホント、友達いないんだね」


私の前に立ち、ニコニコとうれしそうに笑う藍人くんを、華子さんは薄目でにらんだ。


「華子さんだって人のこと言えないんじゃないんですか?」


私も負けじと不満気な顔を作り、藍人くんの後方を見た。そこには、病院の師長、総一郎さんがぶすっとして立っている。


藍人くんは、照れた口調で話しかけてきた。


「えっと……莉栖花さん。
あの……電話ありがとうございます。
なんか、ほら、この前、変な別れ方したから……
えっーーと、それから連絡無いし……
いや、こっちから電話しようかとも思ってたんだけど……
なんか、こうしずらくって」


このピュアな言動にだまされないぞと、自分自身に喝を入れる。今日は何が何でもしっかり確かめなきゃ。


「うん、うん。
ごめんね、急に呼び出して。
ちょっと、手伝って欲しいことがあってね。

猫がね、ここのうちの猫。
タマミさんっていうんだけど。
この家から脱走しちゃって。
ホント、ホントに悪いんだけど捜すの手伝ってくれないかな。
ごめんね、本当に。
なんか、都合良く使っちゃうみたいで。

でね、ついでなんだけど、ちょっと訊きたいこともあって……」


私はできる限り自然に話をもっていこうと、言葉を選んだ。ところが、肺いっぱいに吸い込んだ空気が言葉となる前に、総一郎さんが怒号を浴びせた。


「なんだって?!
猫の捜索?
急用があるって言って、電話よこして。俺にとって大事な話だからって。
全部嘘かよ。
そんなもののために、呼び出されたのか?」


「ああ、そうだよ」


良心というものを、出産の時お母さんのお腹の中に忘れてきたのだろう。華子さんは平然と言ってのけた。


「どうせ暇なんでしょ。
休みって言ったって家族サービスする家族もいない。
一緒に出かける友達もいやしない。
淋しいもんだね」


旧友の言葉に、カチンときたらしい。総一郎さんは、華子さんににじり寄ると、食ってかかった。


「今日は夜勤明け。
休みじゃねーよ。

家族も友達もいないのは、お前の方だろうが。
今だって、他に頼める友達1人みつかんねえんだろ。

相変わらずだな。
看護学校時代と変わんねぇんだな。
いっつも独りぼっちで、人に馴染めなくって。
そんなんだから、病棟の仕事、やってけなかったんだろうが」


「あんたに言われたくないね。
総一郎だって、学校で浮いてたじゃない。
目立たないように、嫌われないように気遣ってたけど、あたしはお見通しだよ。

今だって経験年数たったから師長になったんだろうけど、ちゃんと指導できてるのかね、あやしいもんだよ」


「俺はお前と違ってちゃんと空気を読んで……」