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タマミさんの家をぐるりと囲む庭園は、我が家の感覚で庭と呼ぶのはおこがましい。公園と呼んだ方がしっくりとくる十二分な予算と、広い敷地を費やされていた。
薔薇なんて花は遠くで眺めているのに限ると、庭を捜索していた私はしみじみ思う。
ヨーロッパ風に仕立て上げられた庭園はその広さもさることながら、隙間なく植えられた薔薇の枝にさいなまれ、タマミさんの捜索は困難を極めた。無数の薔薇の棘で私の手や顔は擦り傷だらけとなった。ショートパンツではなく、ジーパンを穿いていたのだけが救いだ。
「タマミさーん。
タマミさーーーーん」
「たーま、たま、たま。
ご飯だよ。
出といで」
血眼(ちまなこ)になって捜したが、タマミさんは見つからない。
「いたかい?」
困難な捜索は部下に任せ、自分はしおれたチューリップの葉の間やらブロッコリーのような針葉樹の陰を捜していた華子さんは偉そうに尋ねた。見つかっていたら、こんな顔はしていない。
首を振る私を見て、華子さんは腹をくくったらしい。落ち着き払った口調で言った。
「まさか、外に出たのかな。
塀も低いし、身は軽そうじゃなかったけど、猫だしね。
まっ、それくらいできるよね。
でもさ、お腹すいたら帰ってくるでしょ。
家は分かってるんだろうし」
相変わらず、華子さんの肝(キモ)の据わり方には恐れ入る。でも、今回ばかりはその度量は頼りにならない。
「そうですよね、華子さん。
でもねっ、これ!」
私はポケットを探ると、小さく折りたたんだ紙を華子さんの目の前に広げて見せた。それは、タマミさんの指示表。
「ああー、忘れてたー。
インシュリンと食事の時間が決まってるんだ」
華子さんは絶望したようつぶやくと、その場にしゃがみこんだ。