リビングからダイニング、台所。四つんばいになりながら、豪華なサイドボードの裏から厚いカーテンの陰まで捜しまわった。けれども、タマミさんは見つからない。
華子さんは首を傾げた。
「変だな。
いないね」
ポプラの木かと見紛うほどのキャットタワーのトンネルに顔を突っ込みながら、私も同意した。
「いませんねー。
そう言えば、ソファーから降りてから全然見ませんよね。
でも、ここもそっちもドア閉まってるんだからこのフロアからは出られないはずなんだけど……」
捜索隊の隊長、華子さんはたった1人の隊員に捜索を任せ、腕組みをして次の指示を模索している。
「うーん、見つけられないほど小さくもないんだけどなー。
猫ってさ、はじっこが好きだからどっか隙間に隠れてるんじゃ……」
頼りにならない隊長の言葉に耳だけ貸し、ぐるりと部屋の中を見回す。と、何か違和感を感じ、脳内のパノラマカメラで撮影していた映像を数秒逆回転した。
後戻りした画像には庭に通じる壁一面のガラス窓があった。違和感はその窓に掛けられたレースのカーテン。風に揺れ、その風に押されたのか15センチほど開いている。
「は……華子さん……」
目を閉じ、思案していた華子さんは「ん?」と私の方に顔を向けた。
「み……見て」
言葉に力の無い私。その指差す方を華子さんも見ると、メガネの奥の目が皿のようになった。
「ねえ、何よ。
ちょっと、これ!」
と、私を責めるように華子さんは大声を上げた。
2人が指差す窓。その窓は、カーテンの奥で20センチ近く開かれている。
「ねえ、ちょっと何で窓、開いてるのよ‼」
隊長に責められても、私にだって分からない。なにより、問題はそんなことではない。
戸惑いに揺れる声で、私はこの状況を自分自身に説明した。
「分かんないよ。
でも……でも、そんなことは置いといて……
もしかして、タマミさん。
ここから……
出ていったんじゃ………」
見つめ合う2人は合わせ鏡のように指を差し合い、同時に叫び声を上げた。
「ぎぃゃーーー!!
まずいよ!
絶対にまずい!!」