暇を持て余した私は、籐の椅子に座りテレビを付けた。


チャンネルを回すと民放からBS、CSと我が家では見れないチャンネルが次々と画面に現れた。囲碁専門チャンネルまで見た所で、テレビを消す。
興味の無い物は、退屈しのぎにもならない。


普段ならこんな時間の隙間が出来ればすぐさまネットをするところだが、今は極力ネットの世界には行きたくない。


華子さんはというと、もうずっと前から携帯電話を開き、スケジュール帳と見比べている。時折「あー、ここなら仕事入れられるかなぁ」とつぶやく様子から、自分自身のマネージメントに忙しいのだと分かった。


手持無沙汰になった私は、さして興味もないが尋ねてみた。

「へー、派遣ってそうやって仕事捜すんですか?」


華子さんは開いていた携帯電話から目を離さず、ぼそぼそと答えた。

「あぁ、まあねー。
仕事紹介のメールチェックして、予定が合う仕事入れたり、この日空いてますって会社に言っとくと、急に入った仕事紹介されたり……
今日もそれよ。

まっ、一カ月とか二カ月とか長期の仕事のこともあるんだけど、この夏は丁度狭間でさ、単発の仕事ばっかなんだよね」


「華子さんって、なんで派遣ばっかりしてるんですか?
ちゃんと病院とかで働いた方が給料いいでしょ。
ボーナスだってちゃんと出るし……」


「あたし位能力高いと枠に収まりきらないっていうか、仕事できすぎて煙たがる人もいるのよ」
と言いながら、華子さんの目線は手帳と携帯電話をひっきりなしに往復する。


あーあ、人間関係うまくこなせないんだと妙に納得したが、学校で空気になっている私にどうこう言う資格はない……か。しかも、その地位でさえ危うくなっていると、ここに来る前の事件が脳裏をよぎった。


現実逃避したくて、会話を続けた。


「でも、昔は普通に病院とかで働いてたんですよね」


華子さんは携帯電話のキーボードを親指一本で打ちながら「んー」と、私の質問が聞こえたのか聞こえなかったのか判断のつかない返答をした。


メールを打ち終えるとその手を投げ出し、きつく目を閉じて目頭の間を指でつまんだ。すると、やっと私の質問が大脳に到達したらしい。華子さんはソファに深く腰かけ直し、私に顔を向けた。


「5年前までは病棟で働いてたよ。
ほら、この前あんたのお父さんと患者さん送った病院。
あそこでね、結構長く働いてたのさ。

ねえ、なんかこの部屋暑くない?
エアコンの効き悪いのかね」


華子さんは恨めしそうにエアコンをにらんだが、高性能のエアコンは涼しい顔で『働いてますよ』とモーター音を鳴らした。