藍人くんの言葉にときめいていた自分が恥ずかしくて『マジじゃなかった』と必死で言い訳する。 強がりで、石ころ並のプライドをかろうじて保つ。


それでも何か一番大きな問題を先送りにしているような気がして、私はもう一度冷静に考えた。


その問題とは『藍人くんはどこでカリス姫の存在を知ったのか』ということ。


この答えは今の私には致命傷になりかねず、言葉にするのをためらった。でも、避けては通れない。


可能性は100%では無いが、限りなく現実的な答え。

藍人くんはカリス姫を『ナイトの国』で知った。つまり、藍人くんは『ナイトの国』の住人である。


「まずいよ。
それは、まずい」


困惑した顔で独り言をつぶやく娘を、お父さんはぎょっとして見た。



もし、そうだとしたら、私、リアルで『ナイトの国』の住人と会っちゃったってこと?それが例え、過失だったとしても、ルール違反には違いない。



「私……国外退去させられちゃう」


私の独り言に、お父さんは目を丸くした。


「おっ‥‥お前、一体、何しでかしたんだ?」


自分の事で手一杯で、今の私には説明する余裕もない。私は真っ白い世界を手さぐりで歩きながら、打開策を模索していた。


車内の不可思議な空気に耐えられなかったのだろうか。お父さんは、旧式のカーラジオのスイッチをひねった。

カーラジオからはノリのいいダンスミュージックが、失恋の歌詞を乗せて流れた。