「開けてー!!
救急車通るから開けてー!!
ほら、ねっ、ちょっとそっちに寄ってよ!
アレルギーで危ない子が救護室にいるの。
早く道開けて!」


アルバイトの警備員から拡声器を奪い取り、叫ぶ女性。


さらに、叫び声を上げながら両手を広げて、群衆に立ち向かう人が4、5人……ううん、10人以上いる。


「ファンクラブのツイッター見てないの?
ほらっ、協力してってリプきてる」


「ちょっとだけ、そっちに寄って。
協力してよ。
お願い!!」


助けてあげたいという熱意が……誰かの力になりたいという善意が、群衆を押し返して道を作る。1人の人を助けようという思いが、集まっている。


救急車は善意によって作られた道を悠々と走り、ゆっくりではあるが確実にこちらに近づてきた。自らのミスを帳消しにするかのように、胸を張って。


すごい。
すごいよ。


救急車が近くまで来ている事を察知し、華子さんは再びドアから出て来た。


どこかの神様が海の水を切り開き道を作ったように、群衆の波を切り開く光景。その光景が私の胸を熱くする。

「ねえ、華子さん。
これって……
これって夢かな」


「冗談じゃないわよ。
なんで、あたしがあんたの夢に付き合わなきゃなんないのよ。

これはね、夢でも幻でもない。
現実。
あんたがた的に言えば、リアルよ。

でもさ、子リス。
これがあんたの力だなんて思ったら、大間違いだからね。

あんたはね、美と優雅の女神カリスにご丁寧に姫までくっつけて祭り上げられて、くやしいよーだの、助けてーだの叫んでるだけじゃない。

友達の兄弟の彼女だか知らないけど、3人たどっていけば誰とでも繋がるなんてネット神話信じて、しょせんは他人の馬の骨だか牛の骨だか分かんない連中に助けられてさ。

そんなんで現実社会が乗り切れるんなら、ドラえもんだって4次元ポケットクリーニングに出したまま、ゆっくり昼寝できるってもんなのよ!!」


華子さん、ドラえもんは現実社会じゃないから。

でも‥‥‥
でも……

全身の震えが止まらない。