自分だったら?
この子の気持ち?
ベッドに横たわる女の子を見つめた。
エピペンって、よく分かんないけど、すんごく大事な物だよね。自分の命守ってくれるんだから。
大事な物?
私ならどうする?
私にとって今、一番大事な物って……
私は藍人くんからの贈り物が入った巾着袋を、Tシャツの上からギュっと握った。
そうだ。
もしかして。
真由香ちゃんの首元を探った。
あった!
首から掛けている毛糸の紐を見つけた。手繰り寄せると、その先には手帳ほどの大きさのジップロックが付けられていた。
透明な袋は開けなくても中身が見える。中には赤く『エピペン』と書かれた棒が。
「これだ‼」
急いでスティックを取り出し、手に乗せてじっと見た。
これを……打つの?
私が?
華子さん、まだ来ないよね。1秒でも早い方がいいんだよね。
私に出来る?
でも、私がやんなきゃ。
バーチャルじゃこの子の命は助からない。
ネットのみんなも応援してくれてる。私が…私がやらなきゃ。
そうだ、打ち方の動画。
スマホの動画サイトを開くと、白衣を着た男性が諭すように優しく説明し始めた。
焦る私は指でスライドし、男性がエピペンのキャップを外す所まで早送りした。
動画に映る講師は、オーバーな動きでキャップを外し、患者役の女性の太ももに狙いを定めた。私も真似てキャップを外し、真由香ちゃんの上にかけられたタオルケットを足元だけはいだ。
ええっと、こうやって持って……
ショートパンツ穿いてるからこのまま太ももを出して……
出ている針を確認する。私は動画と同じように、あらわになった太ももを左手で抑えた。
深呼吸をし、ええーーい、と空回りの気合を入れてみる。
鉛筆みたいに持たれたエピペンが女の子の太ももめがけ、ゆっくりと下ろされた。エピペンが後10センチと目標地点を見定める。
息を止め奥歯を噛み締めると、時間さえも停止したような錯覚に陥った。
その瞬間、救護室のドアが勢いよく開け放たれた。
「ちょっと、待ったーー!!」
振り返ると華子さんが立っていた。かつて、これほど華子さんを待ち焦がれた事があったろうか。
華子さんは、肩を大きく上下させ呼吸している。額を汗が流れるのは走って来たためなのか、緊張のためなのか。
「華子さーーーん」
全身の力が抜け、私はその場にへなへなとしゃがみこんだ。