「まだ始まらないね…」
少し寂しいそうに呟いた吉谷君。
同じことを思った、というだけで、
少し胸が高鳴った。
カキ氷を食べながら、また話し始める。
夏休みつまんないこととか、
再放送しているドラマ、
最近公開した新しい映画…
いろいろな話をしてくれて、
あたしも話せるような話題ばっかりで素直に嬉しかった。
ーー「只今から緑川花火大会、
花火を打ち上げたいと思います…」
突然、アナウンスが流れた。
すると吉谷君はニコッと笑って、
「やっと始まるな‼︎」
ととても嬉しそうに言った。
ヒューと花火が上がる音。
大きく花が開いた後、
ドンッと体の芯にまで染み渡る。
久振りの花火は、
とても綺麗で、
あたしの心を潤すかのようで…
ふと隣を見れば、あたしの愛おしい人。
こんな幸せ、もうないかもな。
なんて思ってしまう。
でもこんな幸せなら、
あたしは、
このまま、いなくなってもいい。
一生分の幸せを
今、噛み締めているようだ。