まだ、花火は上がってなかった。

それでも、賑わいはすごい。

いつもの緑川ではなくて、

人で溢れかえっているようだ。

この、空気の悪い感じが、

あたしは好きじゃないけど、

隣に、吉谷君がいて。

そう思うだけで、別にいいかなと思う。

この空気が、嫌いではなくなる。


「なんか食べる?」

人が多くて、声が聞き取りにくい。

少し首を傾けながら、話す吉谷君。

ガヤガヤと周りの音が、

あたしたちに距離を置かせているみたいだ

「カキ氷…」

「あそこの屋台んとこでいい?
何味がいい?」

「え…?あー、イチゴ…」

「人多いかんねー。
俺買ってくるから、あの土手のとこで待っててくんない?」

あ、そういうことか。

そういう風にいつも気配りができる。

でも、…離れたくない、かな。

「っあたしも…
あたしも、一緒行きたい…」

思わず言ってしまった。

吉谷君は少し意外そうな顔をして、

「そか?なら、手繋いでいい?
はぐれると大変だから」

と、優しく手を伸ばしてくれた。