家のドアを開ける。

いつも少しだけ緊張する。

あたしはこの家に、

帰れなくなる日が来る。

この家に、

家族に、

ただいま、と言うこともできなくなる。

怖くて、震えて。

だけど、少しでも笑顔で、

家族が少しでもあたしの笑顔を忘れないように…

そんな思いでいつもドアを開ける。

「ただいま」

おかえり、とお母さんとお姉ちゃんの声が返ってきた。

部屋に行くと、

「利奈、浴衣着ていくんでしょ?」

と、お姉ちゃんがあたしを迎えた。

あたしは頷いた。

「じゃあ、着付けしてあげる」

「え、いいの?」

「いいに決まってるでしょ?
あ、メイクはするの?」

アイメイクだけ、と伝えると、

それもしてあげると言ってくれた。

お姉ちゃんは美容の専門学校に通っていて、

女子力がとても高い。

唯(ゆい)という名前もかわいくて。

明るめの茶色のボブが、

とても憧れてしまう。

「6時半だったよね?待ち合わせ」

「え、なんで知ってるの?」

「利奈、言ってたじゃない。
彼氏なんでしょー?」

少しだけ目尻を下げて笑うお姉ちゃん。

あたしは全力で否定した。

お姉ちゃんと話す時間はとても楽しい。

まるで、仲のいい友達のようで、

あたしはそんなお姉ちゃんが好きだ。